「ダイヤモンドのカシケイ」と呼ばれ、「カシケイのジュエリーはどうしてこんなに綺麗なの?」とお客様の目が輝く…。その所以とは、一体どこにあるのでしょうか。
要は半世紀に及ぶカシケイのビジネスを「目利き」で支えてきたダイヤモンドバイヤーたち。世界中のダイヤモンドが集まる市場の最前線から、カシケイが求めるもっとも美しい輝き、受け継がれてきた審美眼、バイヤーにとって大切なことまで、海外の拠点とオンラインで繋ぎ、本音で語り尽くします。
駐在歴3年。主な業務は、ダイヤモンドの仕入れ、販売、商品 管理。2020年に採掘が終了した希少な「アーガイルピンクダイヤモンド」のトップディーラーとして世界のマーケットで一目置かれている。
駐在歴11年。現在、海外向けにジュエリーの販売とカシケイの代名詞となっているコンクパールの仕入れ販売を担当。カシケイブラウンダイヤモンドを香港トップ宝飾小売チェーン周生生(Chow Sang Sang)に卸し、香港、マカオ、中国における展開をサポート。
駐在歴5年。主な仕事は、海外のサプライヤーとの買付交渉やダイヤモンドの品質管理を中心とするダイヤモンドの仕入れおよび販売。製造部門の運営管理、カシケイ香港のアシストとジュエリーの海外販売。
村上私は1985年から1988年まで、インド・ムンバイ(当時はボンベイ)に駐在4代目として赴任していました。赴任してまず驚いたのは交通の無秩序さ。象が歩いていたり、牛車も通ったり、人間も車の間をすり抜けて往来するし。また、時間がゆっくりで商談もこちらのペースではできない。翌朝9時にアポをとっても9時には会社が開いてなかったり、「この日までにやってね」と何度も確認しても、守られるのは半分ぐらいでした。
高野私は駐在8代目で、2001年から2012年まで11年居ましたが、その間にボンベイからムンバイになり、ダイヤモンド取引所も新しくなって場所が変わり、街がどんどん新しくなっていきました。それでもまだ古いところは残っていて、一番驚いたのは、空港を出た途端ものすごい群衆のように人が居て、それにまず圧倒されました。
新井僕が赴任した2012年には、空港も綺麗になっていて、レストランもたくさんありましたし、特に2012、3年ぐらいから街はガラッと様変わりしましたね。
高野初めてムンバイのダイヤモンド取引所で買い付けをしたときのことは忘れません。何人ものブローカーが自分の商品を見てほしいと列をなしてテーブルを囲んでいて。バイヤーである私が商品チェックに入ると、みんな私の一挙一動をじっと見ているんですよね。たとえば、ルーペとピンセットの使い方はどうか、ダイヤモンドを入れてきたパーセル*を開閉する手捌きはどうかなど、全部見ていて力量を判断しているのだと直ぐわかりました。その瞬間、「カシケイのバイヤーになったのだ!」と実感するとともに、「良い商品を安く仕入れるぞ!」と闘志を燃やしたことを思い出します。*パーセル=内側がパラフィン紙で二重になっているダイヤモンドの原石やルースを包むタトウ紙
村上ダイヤモンドの買い付けの現場では、バイヤーは10人位の売り手に取り囲まれながら、彼らが「俺が先だ」とか小競り合いしている中で、冷静にダイヤモンドを検品して、たとえば1000万円位の仕入れの商品を、わずか数分位で「買うのか買わないのか、買うならいくらか」と判断しなければなりません。周りがわさわさしている中で正確に判断しなくちゃならないので緊張もするし、ある程度の興奮状態になりますね。
しかも、一人一袋じゃなくて10袋位持ってくる売り手もいるので、何百というロットが集まってくるわけです。すごく瞬時に色々なことを考えなければならない。せっかく持ってきたのに見てもらえなかったら、次から来てもらえなくなるので、とにかくスピードは大事。並んでいる人のロットは素早くチェックして、使えないものはすぐに返し、交渉してオファーもしながら、100ロットでも1時間半ぐらいで検品します。
新井買い付けテーブルにつくのは一人なので、迷っても第三者に相談したりはできません。バイヤーとして全てを自分で決断しなければならないんです。それも瞬時に。だからやっぱり判断を誤ることもあって、値段を踏み違うなど何度も失敗して痛い目を見たことで、最悪を想定して最善を尽くす大切さを学ぶことができました。ムンバイでダイヤモンドマーケットの最前線に身を置いた5年間、その全てが今の僕の血となり肉となっていると思います。
村上ダイヤモンドバイヤーの仕事は、まずは会社にとって必要なダイヤモンドを買うこと。加えて、会社を代表するバイヤーとして任された限りは、自分の裁量でピンとくる、「これから売れるだろう」というダイヤモンドを発掘するのが使命だと思っています。それには、綺麗な石、欲しい石を見極める審美眼と、バイヤーとしての「相場感」が必要です。あと、高額のものを買う度胸とサプライヤーとの良好な関係も。
新井その必要な宝石を買い付けるために大量のダイヤモンドを検品し、値踏みするわけですが、その際にカシケイには独自のダイヤモンド評価基準があって、それがバイヤーの頭には完全に入っているんです。だから、見る眼を忘れることはないし、値段もこのグレードならこの位というイメージが頭の中にあるのでブレないのだと思います。たぶん今の相場感を共有できれば、別の人が値段を踏んでも大きく違わないと思いますね。
村上相場感は、カシケイから送り出されるバイヤーなら、たぶん1カ月もいれば現地の相場がわかると思います。現場で見ていると、自分でアジャストできるようになります。相場感というのは個人が醸成するものなんです。
新井あと、僕ら、冷や汗かいて買うじゃないですか(笑)そうやって買うと、価格が身体に染み込んでくるんですよ。自分で買わないと覚えないですね。
高野そう、現場を重ねて研ぎ澄まされて、値段がどんどん正確になっていくんでしょうね。結局、信じるのは自分の目と経験しかないのだから。
村上あと必要なのは、サプライヤーとの良好な関係ですね。ダイヤモンドには顔があるので、同じ顔のものをレギュラーで仕入れ、レギュラーでお客様に届けるという使命が私たちにはあります。その商売を長続きさせるためには、お客様と同じぐらいサプライヤーが重要なんです。一方的に我々が利益を取るのではなく、サプライヤーも継続的に我々に販売していただけるように、サプライヤーに満足してもらえるような商売をすることが大切です。
時にはゼロベースで何もないところから、サプライヤーと当社とお客様という点と点を線で結びつけるような仕事もあります。
新井ダイヤモンドは奥が深いですよね。僕にはまだまだ全然届かないです! でもバイヤーとしては、そのジュエリーをご覧になったお客様の、「綺麗!」「なんでこんなに綺麗なの?」なんて声が聞こえたりするとシンプルに嬉しいです。カシケイのダイヤモンドは本当に美しいという評価を多方面からいただくのは事実です。
村上カットの良さを言葉で表現するのは難しいですが、とにかくカシケイは美しくないダイヤモンドは扱ってきていないんですよ。社員は入社してから日本にいる間は美しいダイヤモンドしか見たことがないはずです。それぐらい扱っている商品自体が厳選されていて、ダイヤモンドってこういうものだというスタンダードが出来ているので、自然と良いものが身に付くのではないかと。
それで海外に買い付けにいって初めて「綺麗ではないカットもあるんだ」と驚く。日本でたんまり綺麗なカットを見て勉強していて、海外に買い付けに行くと見る量が格段に増えるので、そこで自分の培った経験値プラス、とても綺麗な石を数多く見ることでブラッシュアップにつながるのかなと思っています。
それは自然と身に付くものであって、先輩などから「これが綺麗なダイヤモンドだぞ」と教えられたこともなかったですね。
新井僕も教えられたことはないです。
高野カットがちゃんとしていないとダメで、見た瞬間に綺麗だと判断するのは、品質とか色とかじゃなくてカットなんです。下のグレードであっても綺麗なメイクという点で統一されているんですよ。最終的に、カシケイのダイヤモンドは綺麗なメイクというのが大前提になるんですね。
村上買い付けの場で、見た瞬間すぐ返すのはカットが悪い商品です。それは2、3秒で判断できます。
新井ブラウンダイヤモンドでも追い求めたのはそこですね。優先順位としてまずカット。微妙な違いというのは、「ダイヤモンドに書いてある」というか、「顔に出ている」ので、いい顔をたくさん見ていると「やっぱりこの顔だよね」というのが自分の中に出てくるんですね。そこから外れると、ここが足りない、ここが弱いと感じる。その「いい顔」の基準がみんなの頭に中に共通認識としてあると思うんですけど、言語化はされていない。言語化しないでどうやって受け継いできたんですかね?
高野それって「感覚」じゃないの?
新井え、感覚ですか? ブラウンダイヤモンドでも「カシケイの輝き」というのはあって、僕は勝手に「カシケイのメイク」と呼んでいますけど、その輝きをカシケイの輝きだと判断しているのは「感覚」なんですかね。そうか、感覚を受け継いだのか、それはすごいなあ。
村上共通の審美眼があるということでしょうね。あと、やはり、独自のダイヤモンド評価基準があるのはカシケイの強みだと思います。
新井間違いないですね。たぶん、インドバイヤーが連綿と続いている要因の一つに、カシケイの細かい基準があるんじゃないかと思います。たとえばインドメレの管理のナンバーだったり、アソートだったり、そういうところにもインドバイヤーの共通言語があると感じます。
村上ここまできめ細かい分類になっているのは、世界的にもカシケイが唯一じゃないですかね。たとえばヨーロッパの時計ブランドが品質的にこのあたりだけ使っているというのはあるかもしれませんが、これほど上から下まで細かくグレーディングしているのはカシケイだけかと思います。
村上1980、90年代の頃は、世界中に、たとえばアントワープ、ムンバイ、テルアビブ、ニューヨークのマーケットも、需要に対する在庫が多く、原石を含めておそらく1年分ぐらいは在庫があったんじゃないかと思います。ところが、原石の大きな鉱山会社も新しく出てこなくて、どんどん回転がよくなったというか、需給バランスが合ってきたというか。今在庫はその半分ぐらいになっているのではないかと推測します。マーケットとしては健全になったと言えるでしょうが、バイヤーからすると、各市場に行ってたくさんの中から自分の欲しいものを買い手市場で選ぶという仕事はもうできません。売り手のほうもできるだけ効率よく販売したいという観点のもと、受注に近いかたちで生産し始めているという話も聞いています。という意味では、より精度が高い商売になっていくのかなと。
高野ほぼ同じ見方です。前は欲しいものが欲しいタイミングで買えたけど、今はしっかりコミットメントしていかないと買えない、商売にならない。実際、香港でのブラウンの販売もそうですけれど、先方の求めるタイミングで求める量を提供するためには、情報をもって、覚悟を持ってコミットしていますし、お互い協力しあってやって行く部分が必要だと思います。
新井今は転換期にいるなあと感じています。先日インドに行ったときも強く感じました。先ほど冒頭に過去のインドの話をしたときはオーダーが入ると商品がバーッと集まってくるという話をしましたけど、今は逆で、オーダーを流しても全然商品が集まらないんです。これしかないの?っていうぐらい。それだけ流通在庫が減っていて、欲しいものを欲しいときに行って買ってくるという買付けのスタイルは消えてゆくのかなと思います。
そしてやはり、コミットメントや、お客様やサプライヤーとの強固なリレーションシップを構築していく方向へ、大きく変わるのだろうと強く感じています。その意味で、カシケイが培ってきた歴史や信頼は、世界中見ても他にないので、我々は強い武器を持っていると再認識しました。
村上さっきも話しましたように、私はバイヤーに必要な要素は基本的に4つだと思っています。まず、審美眼。綺麗な石、欲しい石を見極める力と相場感。それと、ものを買う度胸。あと、業者との関係。その4つが揃えばちゃんと買えると思っています。
新井「売りが強いセールスは買いも強い。買いが強いバイヤーは売りも強い」と、入社したとき村上さんに言われた言葉を今でも胸に刻んでいます。買い付けも売りも繋がっているし、サプライヤーとのコミュニケーションや交渉って、結局「人間力」じゃないですか。だからこそ色々なことを磨かないと良いバイヤーになれないと思っています。磨くのは石だけじゃなく、自分もです(笑)。
ダイヤモンドという商材に出会えて本当に良かったなと今思っています。人生を賭けるぐらいに深い商材に出会えたのですから。
高野今は転換期なので、どこも厳しいのは当たり前。でも他社と比べてもカシケイは優れたリレーションもあり、インドで築いてきた歴史があり、信頼がある。買付けから製品開発、販売など全部やろうとしている中で、バイヤーとしてディーラーとして求められる部分もあるし、会社としてバイヤーを育てる責任もあります。バイヤーになるならカシケイが一番でしょう。
ダイヤモンドバイヤーを目指すなら、ぜひカシケイへ!